プロローグ

 
 世界の終わりが訪れる。
 終わりの炎が、世界中を焼き尽くす。
 全て美しき峰々、渓谷、森林、海原、小川を呑み込んで。
 全ての生き物、人間を呑み込んで。
 人間が築き上げた全ての文明を呑み込んで。

 逃げ惑う人々は一瞬にして消し飛び、髪一本残らぬ。
 青々とした草原は焦土と化し、森には黒焦げの木々しか残らず、海は沸騰する。
 空は厚い灰色の雲に覆われ、世界は闇に包まれた。
 暗闇の世界で、終わりの炎だけが光っている。
 その炎が、あらゆる大陸の、あらゆる生命、自然、建築物を破壊してゆく。

 その、かつてどこかで予言されたような終末世界の中でただ一つ、動くものがあった。
 それは、人間のような化け物だった。
 周囲を禍々しい瘴気で包まれた全身真っ黒の異形のものは、天高く浮き、赤い目を光らせ、恐ろしい叫び声を上げながら、全身から瘴気と炎を放射状に放ち、世界を破滅へと導いていた。

 化け物の顔は醜く、血管が浮き出て膨張し、剥き出しの牙からは涎が滴り落ちて足元のビルを溶かす。
 誰もが目を背けたくなるような、恐ろしい形相だった。
 だが、その顔の造形は獣というより人間に似ており、原型は人間であろうと思わせるような何かがある。

 そのときふいに、化け物の顔の色味が白くなり、牙が引っ込み、皺が消え、目が黒くなった。
 そうして浮かび上がってきた顔に、上重優は思わず息を呑む。
 それは、自分の顔だった。