4-6

 その翌週の週末、マウリはカレルリ侯爵が所有する城に赴いた。
「パーティ」に顔を出すためだ。
 行きたくはないが、シンをまた誘われては困るので牽制のために参加することにした。
 護衛のアルと共に車で向かうと、城の前には既に参加者達の車が停まっていた。
 車の扉を開けた途端、温かな夜風が頬を撫でる。
 マウリは車から降りて赤い絨毯が敷かれた城の入り口への道を歩き出した。

 ライトアップされた白亜のこの城は、築五百年の古城で、ナポリ北部の森の中にある。
 湖畔に佇む城は代々このあたりの領主であるカレルリ侯爵の所有だった。
 このカレルリという初老の好色ジジイは暇を持て余した貴族であり、たびたび同族の者を集めては城で乱交パーティその他いかがわしい催し物をしていた。
 パーティは男女混合のことも、男限定のこともある。
 カレルリ自身は同性愛者のようだった。
 そしてたいがい盛り上がってきたところで悪趣味なショーが披露され、その後は招待客がめいめい自室に戻ってお開きとなる。
 近所のマウリは泊まったことはなかったが、海外からの招待客も多いため、客の大半は泊まってゆくようだった。

 マウリはため息を吐き、城門をくぐった。
 パーティは既に始まっていて、メイン会場となっている一階大広間の窓からは明かりが漏れている。
 前庭の噴水は赤色にライトアップされていた。
 男限定という印だ。
 マウリは基本的にこの日にしか来たことがない。
 女がいると妊娠騒動に発展したりして厄介だからだ。
 入り口の扉は閉まっており、ボディガードがふたり待機していた。
 ふたりはこちらを認めると、驚いたように瞠目した。

「まさかあなたがいらっしゃるとは」
「久しぶりだな。招待は受けていないんだが入れるか? ご主人に確認してくれ」
「はい。少々お待ちを」

 穴が開くほど見つめてくる門番たちに辟易しながら待っていると、隣にいたアルが口を開いた。

「事前連絡なしか?」
「いろいろ準備されると困るんだよ。さっさと済ませて帰る」
「そううまくいくかねえ」
「黙って仕事してろ。自分の役目はわかってるだろうな?」
「はいはい、わかってますよ。プリンセスを無事にご帰還させることだ」
「その不快な呼び方をやめろ」

 小声の応酬をしていると、無線で何事かを話していた警備員が言った。

「主人がじきじきにお迎えにくるとのことです」
「そうか。わかった」

 頷いて待っていると、まもなく金糸の刺繍の入った悪趣味なローブ姿のカレルリ侯爵が扉の向こうから姿を現した
 ブタのように血色がよくて気持ち悪い。
 カレルリは足速にやってくると、息を切らしながら言った。

「よく来たね。まさか来てくれるとは思わなかったから……失礼、いささか取り込み中でね」
「この間は夕食にご招待ありがとうございました。急に押しかけてしまってすみません。ふと立ち寄ってみたくなりまして、久しぶりに」

 マウリが以前パーティに参加していたのは、ここでしか交流できない政財界の大物や海外の富豪とのパイプを作るためだった。
 病気の露見を恐れるロマーノやルカには反対されたが、のちにその人脈が役立つであろうと判断したマウリは、しばらくカレルリのお遊びに付き合っていた。
 性的接触が人格交代の引き金になるため、大抵見ているだけだったが、それでもお気に召したようだ。
 以来マウリはカレルリの寵を受け、そのことがファミリー内での立場も強くしている。
 陰でカレルリと寝ている、と中傷されることもあったが、誰もそれを表立って口にする者はいなかった。
 それぐらいカレルリの影響力は強いのである。

「いい、いい、君ならいつでも大歓迎だ。さあ入って」
「警護にうちのボディガードのアルを連れてきたのですが彼もいいですか?」

 カレルリはちらとアルを見ると頷いた。

「構わないよ。前も来ていた子だね」
「はい」
「いやはや……今晩は驚きの連続だ。心臓がもたないよ。ああ、もちろん良い意味での驚きだがね」
「何か特別なことが?」

 カレルリはふたりを大広間に案内しながら頷いた。

「非常に珍しい石を見せてもらってね。トパルニコスというんだが知ってるかい?」
「『孔雀の涙』ですか?」

 孔雀の涙とも呼ばれる宝石・トパルニコスは最近発見された鉱石で、当てる光によって色が七変化することからコレクターの間では法外な値段で取り引きされている。
 それを入手した者がいるらしい。

「それだよ。さすがマウリ君は耳が早い。そう。それをクロフォード伯爵が偶然手に入れたらしくてね。それは美しくてぜひともコレクションに加えたいんだが、まあ早々譲ってはくれなさそうだ。値段がつけられるものではないからね、それも道理だが……」
「ふうん……」
「まあそんなことはいい……」

 そこでカレルリは大広間の扉を開けた。
 シャンデリアのかかった広々した会場でおのおの楽しんでいた招待客たちの何人かがこちらを見る。
 その中にクロフォード伯爵もいた。
 傍らには小柄なプラチナブロンドの子供がいる。
 裸体に薄いレースの衣装を纏っただけの姿だ。
 その首には赤子の拳ほどの宝石がかかっていた。
 なるほどあれか。

「マウリ、久しぶり。しばらく顔を見ないからどうしたかと思っていたよ」
「今日は楽しもう。君のペットは彼かい?」

 寄ってきた参加者たちに聞かれ、マウリは聞き返した。

「ペット?」
「そうだよ。今日はペット品評会なんだ。誰のペットが一番かをいろいろ競って決めるんだよ」

 昔からの常連のクーベルタンが説明する。
 どうやらペットが必要な回らしかった。

「失礼。前もって確認しなかったもので」
「ならばうちの子を一人貸そう。カミーユ、おいで」

 カレルリに手招きされてやってきたのは、若い金髪の青年だった。
 薄化粧をし、長い髪に宝石の髪飾りを編み込んで白いシルクのドレスを着ている。身長は百六十五くらいか。マウリより少し小柄だった。
 男にはとても見えない。見たことがない顔だった。カレルリは知らぬ間にペットを増やしていたらしい。

「こちらの方は?」
「バルドーニファミリーの次期後継者とでもいったところかな。マウリ君だ。今日は彼がご主人だよ。挨拶して」

 すると、カミーユはドレスのスカートをつまみ、品よくお辞儀をした。

「はじめまして、カミーユです」
「どうも」
「あなたのためにトップを獲りますよ」
「ああ、よろしく……」

 カミーユはそう言ってマウリの腕に腕を絡ませた。
 美形だが、いかにも美しさを鼻にかけた感じの奴だ。こういうタイプはプライドが高く、ちやほやしてやらないとすぐ機嫌を損ねるので、面倒極まりなかった。
 だが自分のペットを貸してくれた主催者に文句を言うわけにもいかず、カミーユと共に案内されたソファ席に座る。広間中央付近のカレルリの席の近くだった。
 内心来る回を間違えたな、と思ったがいまさら後戻りもできない。
 とりあえず『孔雀の涙』でも調べて帰るか、と思いながら会の成り行きを見る。
 カレルリは、そこかしこにソファベッドとテーブルが置かれた絨毯じきの大広間の自分の席で談笑している残りのペット二人と二言三言会話を交わすと、中央のステージに上がった。
 ランウェイのステージを模して造られた細長いステージの先の丸い部分に立ち、マイクを持って声を張り上げる。
 すると、それまでざわついていた会場が静かになった。

「皆さん、本日はようこそお越しくださいました。皆々様おそろいのようですので、宴を始めたいと思います。さあ、『ナポリの熱い夜』開幕です! 事前にお伝えした通り、本日は皆様のペットの素晴らしさを分かち合う会です。みなみなさまがた、ご自慢のペットをお連れかと思いますので、各自出場させてください。
 ペットの保有上限は三で、三ラウンド制。審査は全員で行います。各自配られた端末が機能しているか確認してください。十点満点で評価し、都度点数を送信してください。
 優勝者には任意のペット二人とトロフィー、最高品質のエメラルドリングが贈られます。二位には任意のペット一人、トロフィー、最高級ダイヤがあしらわれた王冠、三位にはペット一人、トロフィー、そして彩り宝石コレクションが用意されています。
 勝者は、上位三人以外の他人のペットを指名し、景品として譲渡してもらうことができます。ですので、通達した通り、今回のパーティではペットを失う可能性があります。その旨ご了承いただいた上でペットを出場させてください。ペットは三人まで出場させられますが、出場し、入賞しなかったペットは譲渡対象となります。そこにご留意ください。
 それでは早速第一ラウンドを開始しましょう。第一ラウンドは、スタイル審査です。出場者はステージ後方の待機場所に集まってください。準備ができ次第開始します」

 カレルリは話し終わるとステージを降りた。
 すると、参加者のペット達がおのおの立ち上がり、ステージ後方へと歩いてゆく。
 カミーユも行くのだろうと思って待っていると、相手が言った。

「三位以内に入ったらご褒美くれる?」
「ご褒美?」

 わずかに眉をしかめて聞き返すと、カミーユはマウリに体をぴったりつけながら囁いた。

「キス」
「はあ? 本当のご主人様の目の前でンなことしていいのかよ?」
「まさか、ここではやらないよ。でも空いてる部屋、いっぱいあるよ?」

 そう言って流し目を送ってくる相手に我慢の限界がきて、体を押しのけた。

「勘弁してくれ。そういう趣味ないから」
「はあ? 何それ。あんなじいさんにビビってんの?」
「お前こそ自信過剰じゃねぇの?」

 売り言葉に買い言葉で空気が険悪になる。カミーユは拒絶された屈辱を誤魔化すようにマウリを嘲笑った。

「ああ、そういやあんたカレルリの飼い犬なんだっけ。忘れてた」
「俺がお前の首を絞める前に消え失せろ」

 低い声で唸るように言うと、カミーユは勢い良く立ち上がり、ドレスの裾を翻して憤然と歩き去っていった。
 後でカレルリに弁解しておかないとな、と思いながら苛立ちまぎれにシャンパンを煽る。
 これで手持ちのペットはいなくなってしまったからコンテストには参加できない。
 三位以内に入ればあるいはあの宝石を首からかけた子供とカミーユを交換できるかと思っていたがしくじった。

 マウリは舌打ちをして、ソファに深々と沈み込んだ。
 『孔雀の涙』の情報が欲しかったがこうなった以上無理か。まあ本題はカレルリの機嫌取りだから欲目は出さずに帰るか、とあきらめかけたところで、ふと妙案が浮かぶ。
 マウリは広間の隅に立っているアルを呼び寄せ、言った。

「お前、俺の主人になれ」
「は?」
「会のコンセプト、聞いてなかったのか? ペットの品評会だぞ」
「それが何で俺が主人に? あんたを飼ったら食い殺されそうだが」

 呑み込みの悪いアルに苛々しながら説明する。

「マジなわけないだろ。演技だよ演技。どうやらクロフォードが『孔雀の涙』を入手したらしい。その情報を取るためにあいつのペットを手に入れたいんだ」
「ペットって……ああ、あの子か」

 アルはよろよろとステージに向かうプラチナブロンドの子供に目をやった。
 そして眉を顰める。

「ありゃあ相当痛めつけられてるな。情報が取れる状態かね?」
「薬だったら抜けばまともになる。とにかくあいつが欲しいんだよ。三位以内に入れば手に入る」
「なるほどな。確かにトパルニコスの情報は持っていて損はないな。で、何であんたがペットになるんだよ?」
「お前みたいなオッサンがペットなんて無理に決まってるだろ」
「いやつうか、あのかわいこちゃんはどこ行ったよ? カレルリ侯爵から借りたペット。あの子なら三位以内に入るだろ」

 アルの問いに、不機嫌に答える。

「どっか行った」
「はぁ?」
「キスしろとか言ってきて無理っつったら逆ギレだよ。ったく、カレルリもろくでもないの飼ってんな。なんなんだよアイツ」

 すると、アルはため息をついた。

「もうちょいうまくかわせなかったのか」
「何で俺がそんなこと言われなきゃなんねーんだよ? 殴られたいのか」
「まあ仕方ねぇな。今回は諦めた方がいい」
「何でだよ? 俺だったらいけるだろ。色物枠でさ」

 その言葉にアルは眉をひそめた。

「簡単に言うな。審査でペットが何するか知ってるだろ? 仮にもファミリーの後継者がそんなことをしたら面目丸つぶれだ。それに、『子供』が出てきたら?」

『子供』というのはマウリの副人格のサムエーレのことだ。
 こいつには他の人間と身体接触をすると出てくるという面倒な性質があった。

「それがないようにお前がなんとかしろ」
「んな無茶な」

 あのステージでペットが何をするか、もといされるかは知っている。以前も同じようなコンセプトのパーティに出たことがあるからだ。
 ストリップ、マスターベーション、主人や他のペットとの性的な絡み、果てはセックス……そういう会なのだ。
 だからペットとして舞台に出るということはそういうことを意味する。
 だが、マウリはカレルリの招待客だ。そこまでしなくても許されるだろう。
 おそらくは、ペットとしてステージに出るだけで話題になるから少しそれっぽいことをするだけで上位に食い込める気がする。

「ステージでの相手役はお前だけだ。そしてお前は俺に絶対触るな。触らずに触ってる風に見せろ。いいな?」
「何だよその無茶ぶり~……」
「さっさと番号札貰ってこい。第一ラウンド始まっちまう」
「もー、どうなっても知らんからなー俺」

 アルはぶつくさ言いながらイベントの進行をしているカレルリの愛人のところへ行き、ペットが着ける用の番号札を貰ってきた。
 マウリはそれをタキシードのズボンのポケットのところに着け、立ち上がってステージ裏へ行った。
 そこはすでに同じように番号札を着けたペット達でごった返していた。
 過半数がカミーユのように女装しているが、マウリのようにタキシード姿の者もいる。
 そのうちの一人に声をかけると、相手は驚いたようにマウリを見た。

「あの、参加されるんですか?」
「まあな。で、スタイル審査ってなに?」

 数年前にこの類の会に参加したときはステージ上を歩くだけだった。
 だが最近変わったかもしれない。
 そう思って聞くと、男はステージを指し示した。

「衣装を着てあそこを歩くだけですよ。容姿審査みたいなものかな。ゆっくり歩いて先で止まって一回転して戻ってきます」
「そう」

 どうやら内容は変わっていなかったようだ。
 マウリは参加者を番号順に並べている係員の指示に従い、列の最後尾についた。
 そうして待っている間周りを観察する。
 すると、列の前の方にあの孔雀の涙をつけた少年を発見した。
 マウリは一旦列を離れ、少年に近づいた。

「よお、いいものつけてんじゃん」
「あ……う……あ……」.
「なんだ喋れねえのか」

 少年の目の焦点は合っていなかった。
 知恵遅れか、もしくは薬を使われているか。
 踵を返そうとすると、少年にジャケットの袖を掴まれた。

「……けて……たす、けて……」

 振り返ると、少年が縋るような目で見上げてきた。
 シースルーの衣装の下には薄っぺらい体があった。

「……」
「殺される……ころ、される……」
「そんな酷いのか?」
「無理……もう無理……怖いよう」
「その宝石の情報をくれたら考えてやる」

 すると、少年はなにかぶつぶつ呟いたあとに言った。

「な、何が知りたいの?」
「入手ルートだ。どこで手に入れた?」

 通称『孔雀の涙』というトパルニコスは、最近発見された希少な宝石だ。
 色味はダイヤモンドに似ているが、より輝きが大きく、赤外線を当てると緑に、ブルーライトを当てると黄色に、紫外線を当てるとオレンジに、そして暗闇でピンクに光るという性質がある。
 この特性からコレクターの間では法外な値段で取り引きされていた。
 マウリも実際目にするのは初めてだった。
 供給は石が出た鉱山を所有しているイギリス人の富豪が独占しており、滅多に手に入らない。
 そのため、仮に手に入れられれば今後取引の材料として大いに活躍しそうだった。

「そ、それは……しってるよ。ろ、ロンドンの教会で買った……」
「教会?」
「うん……」
「本当か? 神父が売ってんの?」
「うん……それでね、『ブルーアイズ・クラブ』に、は、入っているひと、だけ」
「『ブルーアイズ・クラブ』? 聞いたことねえな。伯爵も入ってんのか?」
「う、ん……ロンドンの、そしき……」
「なるほど……嘘じゃねえだろうな?」
「ほ、ほんとだよ……だから、たすけて……もう痛いのいやだ」
「約束はできねえけどまあやってはみる」

 マウリはそう返して少年に背を向けた。
 クロフォードはペドで変態らしいというのは聞いたことがあったが、詳しくは知らなかった。
 しかし相当エグいことをしているようだ。同じ趣味のロマーノがマシに思えてくるほどだ。
 胃のむかつきを覚えながら待っていると、間もなくカレルリのアナウンスが入った。

「さあ、いよいよコンテストの始まりです! ファーストステージ! トップバッターはエントリーナンバー1、クリスチャン! ブラウンの髪と目、長い手足が魅力の元バレエダンサーです。ご主人はアッペル卿」

 室内に流れていたクラシックがアップテンポの曲に変わり、出場者がステージに出て行く。
 マウリは席に戻り、順番を待った。
 着飾った男たちが次々ステージに出ていく。
 異様な光景だった。
 改めてシンを来させなくてよかったと思いながら眺める。
 こんなところに来ようものなら即餌食にされるのは目に見えていた。

 しばらくして再び先ほどの少年を見ると、座り込んでしまっているのを、係の者に立たせられてステージに出されていた。
 首にかけた宝石の効果か、ひときわ大きなどよめきが上がる。
 まもなく戻ってきた少年は憔悴しきって、マウリの方を見ることもなくヨロヨロと席に戻っていった。

「胸糞わりぃ……」

 何をされているかだいたい想像はつく。
 こういうタイプの変態は理解できなかった。
 子供のどこに興奮するのかわからない。
 しかしこういう会合ではその手の輩が多いのも事実だった。
 腕組みをしてイライラしながら順番を待っていると、次第に人数が少なくなってゆく。
 やがて最後のひとりとなり、マウリの名前が呼ばれた。
 その途端に会場がざわつく。誰もマウリがペットとして参加するとは思わなかったのだろう。
 マウリは照明の当たる赤いステージに出てできるだけゆっくり歩いた。
 上方に設置されたスクリーンに自分の姿が映し出されるのが見える。
 ずいぶん手の込んだ演出だった。

 周りから注がれる視線を意識しないようにしながらステージの先で一回転して舞台袖に戻り、点数を聞く。
 二百点満点中百七十八点だった。現状三位だ。
 点数は三ステージ合算で、一番点数の高いペットが持ち主の点数になるらしい。
 全て終えて三位に入ればトパルニコスの情報源になりそうな子供を手に入れられるわけだ。
 マウリはぐったりとクロフォード伯爵によりかかっている少年をちらりと見た。
 あいつが本当のことを言っている保証はない。
 というより九割ウソだろう。
 しかし、『孔雀の涙』について何も知らないわけがない。
 もしかするとあいつ自身が宝石のオマケだった可能性すらある。
 それを考えるとあの子供は手に入れておきたかった。
 やがて休憩を宣言してカレルリが一旦席に戻ってきた。

「いやあ、驚いたよ。まさか君が参加するとはね」
「急にすみません。カミーユには振られてしまったもので。もし機会があれば謝罪していたと伝えてもらえますか?」
「ああ、あの子は少し気難しいところがあってね……。こちらこそ申し訳ない。わかった、伝えておくよ。ところで何か欲しいものでもあるのかい? 君自身がコンテストに出るほどのものが」

 その問いに、マウリは嘘を言った。

「せっかくなので今回は参加してみようかと」
「それは喜ばしいことだ。ぜひ楽しんでいってくれ。君なら間違いなく勝てるよ。負けたとしても……恐れ多くも君を指名するような輩はいないだろうしね」
「まあ、たまには毛色の珍しいのがいてもいいでしょう」
「それはそうだ」

 そこで一応確認する。

「電子機器の持ち込みは制限していますよね?」
「もちろん。携帯も持ち込み禁止だよ。入り口に金属探知機があっただろう。配布のデバイス以外使えないようになっている」
「なら問題ない」

 仮にもファミリーの幹部がいかがわしいパーティでステージに上がっている画像や動画が流出するのはマズい。だがカレルリはそのあたり徹底して対策しているようだった。
 面子を重んじる貴族の参加者も多いから、この措置は当然だろう。
 やけにはしゃいでいるカレルリに適当に相槌を打ちながら珍しい宝石のことを考えていると、まもなく第二ステージが始まった。