打ち上げが終わる頃には、かなり酒が入って酔いが回っていた。
スパロウだけがゲストのゴールデン帯の番組は初めてだったから、それぞれ思うところもあり、結構熱い話になったのだ。
拓は、多少キツくてもこのままトップまで駆け上がりたい、と言い、全員が同意した。
彰の知名度を借りてでも、トップを獲りたい。
皆、せっかくのチャンスは生かすべきだという考えだった。
これには、加入してからの二ヶ月間、彰が努力してスパロウに溶け込んだことも大きかった。
認めるのは癪だが、彰の中途加入組としての振る舞いには文句のつけようがなかった。
あくまで事務所の新人としてグループの方針には一切口を出さず、メンバーに自ら歩み寄って積極的にコミュニケーションを取り、そして、先輩である拓と秋を立てたのだ。
この謙虚さと気さくさで、彰は一瞬でグループに溶け込んだ。
だから、ここにきて彰に反発するようなメンバーはもはやいなかったのである。
メンバーの中では、淳哉が一番対抗心があったといえるが、今日の収録と撮影で、それを抱くレベルにすらいないことを突きつけられ、反論する気もおきなかった。
一緒に仕事をしてみてわかったが、彰はもはや昔の彰ではない。
本来ならば、気軽に話しもできないような立場の人間なのだ。
ライバル視するなど身の程知らずもいいところだった。
だから、メンバーの意向を尊重し、彰を受け入れることにしたのだった。
食事会は大いに盛り上がって終了した。
メンバーはおのおのが同じ方向のメンバーとタクシーに乗って帰途についた。
その頃に彰が潰れていたので、淳哉は送っていくとメンバーに伝え、店に呼んだタクシーに一緒に乗り込んだ。
そして、彰のマンションの住所をドライバーに伝えると、車が発進した。
煌々と光る街の明かりが、後ろに流れていく。
自分も結構酔っているな、と思いながらふとシートに体を預ける彰を見ると、穏やかな表情で眠っていた。
窓の外から入る繁華街の明かりが、その白い頬を照らす。
その瞬間に長いまつ毛と泣き黒子が見えて、なぜかドキッとした。
彰は、贔屓目に見なくても整った顔立ちをしている。
女顔ではないが、中性的な美形で、浮世離れしたような美しさがある。
見慣れているから普段意識することはないが、淳哉はこれまで彰以上に綺麗な女性を見たことがなかった。
あまり考えずにその頬に手を伸ばして撫でると、驚くほどなめらかだった。
彰は窓ガラスによりかかってピクリともしない。
襟ぐりが大きめにあいた白いプリントシャツを着て、無防備に喉と首周りを晒している姿がたまらなかった。
無意識にそちらに手を伸ばすと、銀のネックレスに引っかかる。
シンプルな長方形の飾りのみのものだ。
彰はいつからか、これを着けるようになっていた。
『スターライトレイヤーズ』に入って少し経った頃から着け始め、脱退するまでかなり頻繁に着けていた。
番組などでもその話がたびたび出ていたから覚えている。
しかし、スパロウに入ってきたときにはもうしていなかったし、今日までしていたこともない。
だから存在を忘れかけていたが、なんとなく気になってはいた。
大事な人からもらったものなのだろうか。
それとも何かの記念に自分で買ったのか。
やけに気になって飾りの部分を胸元から引き出して見ると、ロケットのように開く仕様になっていることがわかった、
小指の爪ほどの大きさだから、ロケットにしては小さめだ。
淳哉はしばし考え込んだ。
これを開けるのは、明らかにプライバシーの侵害だ。
絶対に開けるべきではないと理性は言っている。
しかし、本能は開けろと言っていた。
淳哉は逡巡したのち、それを開けた。
写真でも入っているかと思ったが、中は空だった。
しかし内側に、ルビーで「K」と書いてある。
「………」
彰の名前の頭文字にKはない。
やはり貰ったものなのか。
所有欲が滲むその文字に、なぜか胸がモヤモヤしてくる。
彰は少し前まで、これを肌身離さず着けていた。
つまりそういうことなのだ。
Kは、付き合っている彼女のイニシャルだろう。
相手は誰なのだろう、と思いながら蓋を閉じてネックレスを元に戻す。
彰は交友関係が広すぎて、思い当たる相手が多すぎた。
Kから始まるモデルも女優もアイドルも、山ほどいる。
当たりをつけようにも無理だった。
「まあ、モテるよな」
これだけの見てくれで女性が放っておくはずがない。
女性の趣味は知らないが、ネックレスを見るに意外と一途なようだった。
まあ、遊んでいない証拠はないが。
淳哉はなんとなく嫌な気持ちになりながら、タクシーで彰のタワマンまで移動した。
到着してもまだ彰は起きなかったので、仕方なくおぶってマンションの玄関まで行った。
そして、彰の鞄からカードケースを出し、それを開けてカードキーを取り出した。
それをリーダーに翳し、以前教えられた暗証番号を入力してオートロックを開ける。
そうしてエントランスに入った。
彰の住む高層マンションはいわゆる億ションで、港区にある地上三十階建ての建物だった。
エントランスの床は舐められるほど綺麗で、コンシェルジュまで常駐している。
二十代が住めるようなマンションではなかった。
何度か顔を合わせたことのあるコンシェルジュに会釈をし、モダンな照明が照らすエントランスを通ってエレベーターホールまで行く。
『21-30』という表示のあるアイボリーの高層エレベーターを呼ぶと、すぐに扉が開いた。
淳哉は彰を背負ったまま無人のエレベーターに乗り、二十一階を押して閉ボタンを押す。
女性のアナウンスと共に扉が閉まり、エレベーターはまもなく21階に到着した。
淳哉は彰を連れてエレベーターを降り、廊下を進んで部屋まで行った。
二十一階は四室しかなく、部屋の扉と扉の間隔が広い。
そして、言うに及ばず、部屋はかなりの広さだった。
彰の自宅は、3LDKでリビングが二十畳もあるバルコニー付きの部屋だった。
最近引っ越したらしいが、家族ができることを見据えたような間取りだ。
真剣な相手がいるのは間違いない。
彼女がおそらくKだろう。
グループ活動に支障をきたすようなスキャンダルは勘弁してほしい、と薄情に思いながら、彰を主寝室に運ぶ。
中央にどーんとあるキングサイズのベッドは、部屋の色調に合ったアイボリーだった。
前に住んでいた部屋はモノトーンで家具を揃えていて殺風景だったが、この部屋は正反対に暖かみがある。
彼女の趣味なのだろう。
ベッドに彰を降ろし、横たえると、淳哉は自分もその横に横たわった。
運んできてやったのだから、一晩位泊まってもいいだろう。
最高級のマットレスに体を包み込まれ、もう起き上がれない。
淳哉は息をついて毛布を引き上げ、二人の体にかけた。
そして枕元のスイッチで電気を消すと、急激に睡魔が襲ってくる。
目を閉じると、たちまち意識が薄れていき、まもなく淳哉は眠りについた。
◇
深い眠りについていた淳哉が目を覚ましたのは、深夜だった。
体に違和感があって変な感じで目が覚めた。
半覚醒状態で違和感の正体を探っていると、まもなく下半身が熱いのに気づいた。
誰かが局部を舐めているのだ。
それで淫夢を見ているのだとわかった。
どうやら相当欲求不満だったらしい。
フェラチオをされる夢など見てしまった。
淳哉は人型に盛り上がった布団が蠢くのを見ながら、早く起きようと努力した。
隣で寝ている彰に見つかったら、一生からかうネタを与えることになる。
そうなる前に起きたかった。
目を覚まそうと四苦八苦していると、布団がもぞもぞと動いて中にいた人が姿を現す。
それを見て、淳哉は一瞬頭が真っ白になった。
「彰……?」
「はあ……早く」
そう言って彰は、見せつけるように既に半分脱げていたチノパンと青のボクサーパンツを脱ぎ、たちあがっているペニスをしごきながら尻をもう片方の手でいじった。
それから後ろを向いて尻だけ高く上げた体勢になり、長い指を尻穴に突っ込んでズボズボ出し入れした。
そして、かすかに喘ぎながら言う。
「準備できてるから……いいっすよ」
それで淳哉は大混乱に陥った。
これは夢だ。それは間違いない。
彰はゲイではないし、こんなことをするわけがないからだ。
だが、夢だとしても大問題だった。
夢はよく本当の望みを反映したものだといわれる。
だとしたら、これが自分の望みなのか?
自分は彰をそういう目で見ていたのか?
何もわからない。
とにかく一刻も早く起きたい。それだけは確かだった。
動かない淳哉に焦れたのか、彰は一旦指を抜いてこちらを向き、シーツに両膝をついた。
「……怒ってるんすか?」
「………」
「すいません。でも、連絡したら迷惑かかると思ったんで……」
「ちょっ……!」
そうして、彰はまた淳哉のものを舐め始めた。
先ほどの刺激で既に勃ちあがっていたそれが、更に硬くなる。
顔を埋めて局部を口に含む彰を押しのけようとしたが、酔いと快楽で手に力が入らなかった。
夢だとしても、彰にこんな欲望を抱いている自分が信じられない。
信じたくなかった。
彰はそうやって淳哉を十分に昂らせてから、サイドボードの引き出しからコンドームを出して、淳哉のそれに被せた。
そして、腰の上に跨り、ペニスの先端を自分の尻にあてがって、ゆっくり腰を下ろしてきた。
「っ……!」
「はっ……」
勃起しきったものが、熱い粘膜に包まれる。
口腔内とは比べものにならない締めつけに、淳哉は息を呑んだ。
そして、これは本当に夢なのか、と思い始める。
感覚がリアル過ぎた。
ゆっくり動き出した彰のナカに擦られ、恐ろしいほどの快感が腰を直撃する。
思わず突き上げると、彰が喘いだ。
「んっ……あっ……」
下半身だけを露出し、自分に跨る姿はとんでもなくエロかった。
足元の照明だけが照らす薄暗がりの中で、白い体が上下運動をする。
はっきりと表情までは見えないが、喉をのけぞらせて顔をしかめ、快楽に喘いでいるようだった。
尻に突っ込まれて感じているのだ。
その証拠に、彰のペニスは勃起して蜜を滴らせていた。
それを軽く触ってやると、鼻から抜けるような声を出してぎゅっと淳哉を締めつける。
他の男のモノを触るのはこれが初めてだが、抵抗はなかった。
今度はくりくりと先端に蜜を塗り込んでやると、彰は本格的に喘ぎ出した。
「あ、ああ、ああ、」
「はっ……」
たまらず何度も強く突き上げる。
すると、彰は悲鳴じみた声を上げ、されるがままに揺さぶられた。
もう自分では動けなくなってしまったようだ。
両手を淳哉の脇について、ぺたりと座り込んでいる。
淳哉は繋がったまま身を起こし、彰をベッドに押し倒した。
「んっ……」
その時の衝撃でいい場所に当たったのか、彰が甘い声を出す。
至近距離で見ると、一度も見たことがないいやらしい表情をしていた。
トロンとした目は茫洋とどこかを見、薄い唇を半開きにして喘いでいる。
淳哉は我慢できずにその唇にキスをした。
すると、いきなり舌が入ってきて、淳哉の舌を絡め取る。
「ッ……!」
くちゅり、くちゅりといやらしい音を立てて、二人はディープキスをした。
淳哉は快楽に圧倒されながら、先ほど見つけたしこりを擦るようにして腰を使った。
途端に締めつけがきつくなる。
大股開きで淳哉を受け入れた彰は、胸を仰け反らせて声にならない悲鳴を上げ、淳哉にしがみついた。
背中に回った手が、痛いくらいに淳哉を抱きしめる。
淳哉は夢中になって腰を使った。
「むっ、んっ、んっ、ひあっ、あっ、ああっ」
唇を解放すると、たちまち高い声で喘ぎ出す。
彰は目を伏せて眉を寄せ、頬を紅潮させて、突く度に喘ぎ声を上げていた。
痛みをこらえるような余裕のない表情に、ますます欲望の炎が燃え上がる。
最奥まで抉ってやると、ふいに彰が体を痙攣させ、精を放った。
先走りで濡れたペニスの先から精液が吹き出し、彰の腹にかかる。
「はあ、はあ、はあ」
後ろだけでイったのだ。
淳哉は自分の想像力のたくましさに半ば呆れながら、動きを再開した。
男が尻だけでイくわけがないのに。
「あっ、あぁっ! 待ってっ、まだっ……んうっ、イくっ、またイくっ……!」
待てとは言われたが、夢なのでその必要はない。
淳哉は、現実の自分がヤバい声を出していないことと、隣で寝ているであろう彰が起きないことを願いながら、最後のスパートをかけた。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ……!」
ガツガツと突いてやると、再び彰が体を震わせて吐精する。
グチュグチュと音を立てる尻穴はすっかり蕩けて、淳哉を受け入れきっていた。
それが、彰がイくたびに締めつける。
彰は二回目に出した後も、出さずに何度もイっていた。
「ひっ、あっ、あんっ、あっ、イくっ、んっ、んうっ! はぁ、はぁ、はぁ……あ、またっ……待って、まだ無理だって……あぁっ!」
「はっ、はっ……」
ピンポイントで奥のコリコリしたしこりを抉ってやると、彰は面白いようにイった。
体をガクガク痙攣させ、のけぞって何度も絶頂する。
彰の充血したペニスはもうびちょびちょだった。
「もう無理っ、もう無理だって……! あっ、あぁっ、またイっちゃ……ひっ、んーー!」
「ッ……!」
ひときわ強く締めつけられ、淳哉はついにイった。
経験したこともないような量の精液が出る。
それを、ビクビクとうねる内壁が優しく包み込んだ。
「はあ、はあ、はあ……」
「はっ、んっ、はっ、ああ……」
動きを止めると、彰は淳哉を掴んでいた手をパタリとシーツに落とした。
そして、放心したように虚な目で天井を見上げ、ピク、ピク、と時折体を震わせる。
淳哉は汗で濡れた髪を撫で、しばらく余韻に浸ってからペニスを引き抜き、ゴムを外して彰の横に寝転がった。
胸を上下させていた彰はまもなく目を閉じて落ち着いた呼吸になり、寝息を立て始める。
その途端に淳哉はハッと我に返った。
彰を抱いてしまった。
夢の中とはいえ、彰とセックスしてしまった。
明日の朝、どんな顔をして会えばいいのか。
もう一生まともに目を見られない気がする。
しかし、こんな強烈な淫夢の相手がなぜよりによって彰だったのか。
何もかもがわからない。
しかし、一つだけわかることがある。
それは、この秘密を墓場まで持っていかねばならぬということだ。
絶対に気取られてはいけない。さもなくば、彰とは友達でいられなくなるだろう。
自分は、無意識で彰をそういう対象として見ていた。
だが、それに気付かれてはならない。
気付かれたら関係は破綻する。
仕事にも差し支えるだろう。だから絶対に……。
淳哉はそんなことを考えながら、再び眠りに落ちていった。